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黒髪紫眼のアリスという名の少年が、幾分か高くなった空を見上げた。
お茶会は、何度目になったかわからないが、すっかり日常と化して、糸目の帽子屋は自慢のブレンドを今日も皆に振る舞っていた。
この前まで、冷たいレモンティーでなければやっていけないような気候だったのに。
今日は、なんだか温かなミルクティーが恋しい。そういえば、幾分か肌寒くなってきた気がする。
お茶会の会場のチェシャ猫の森の木々は、わずかではあるがに紅葉して、春とは違った、落ち着いた温かな色合いになりつつある。
もう、秋か。
「アリス?ぼうっとしてどうしたの?」
蒼い瞳のトザウサギが、空ばかり見上げる俺を不思議そうに眺めた。手には大好きなリンゴを手にして。身体の半分はありそうな、大きな懐中時計を足元に置きながら。
「あ?……いや、寒くなったなぁ、って」
「そんだけ肩出してれば寒いに決まってるにゃ……」
黒髪のチェシャ猫カイトはふよふよと尻尾を揺らした。そういうカイトだって、ついこの間まで上半身裸で「暑い」って喚いてたくせに。
それを口に出すと、カイトが臍を曲げそうなので口にはしない。面倒なことは嫌いだ。平和主義者なんでね。
そう思いつつ、また空を見上げる。夏に比べて、また幾分か雲が薄くなった。
白が青に溶けて、混ざる。
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