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「泣かないの」
「泣いてない」
「もう、」
手を強く握ったら、同じように握り返される。
紅茶は、冷めてもなお香る。
センチメンタルな僕。庭園の景色は、何一つ変わっていないのに。
「死ぬのが怖い女王は、きっと生きるのが楽しいんだね」
落ち着いてきたら、なんだか恥ずかしくなってきた、手を離した。
「ほらほら女王様、御自慢の紅茶が冷めてしまいましたよ?」
「……お前の紅茶がいい」
「はいはい、」
ふわり。
帽子屋の紅茶は、僕のにはない香りがある。
帽子屋だけの紅茶。僕一人じゃ飲めない紅茶。
きっと、これは帽子屋のだから。
一気に飲み干して、空になった僕のティーカップからは、まだ紅茶の香りがする。
ああ、そっか、これか。
「あったかいね」
砂漠の真ん中で、似合わないことを言ってみた。
笑顔で頷く帽子屋に、いつの間にか消えていた不安。
だって、僕はここに在ったんだから。
END
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