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また、こんなこともあった。
やたらとクレヨンが無くなり、困っていた時期がある。
その日も神人は、絵を書いていた。父親の好きな緑色で、ネクタイに色を付けようとしたとき、また無くなった。
直ぐに見渡すと、クレヨンが歩いていた。いや、良く見ると10センチほどの狐が、クレヨンをくわえて歩いていたのだ。
「お父さんっ!お父さんっ!」
翻訳家の仕事をしていた父親は、書斎机からクルリと向き返ると、駆け込んで来た神人の身体を受け止めた。
「お父さんっ!小さい狐が、僕のクレヨンを捕って行ったの!」
ぐしょぐしょに泣いていた神人の頭を優しく撫で、父親は笑った。
「じゃあ一緒に裏のお稲荷さんに行こうか。」
神人は父親に抱えられたまま、裏手のお稲荷さんまでゆっくりと歩いた。
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