過ぎ去る日常

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雅司 「お笑い芸人か……でも芸人ってかなり大変だって聞くよ?」 香代 「売れて、有名になるのはごく少数。ほとんどの芸人は世間に名を知られることもなく消えていく。そういうことやろ?大丈夫。そんなの、承知の上や」 満面の笑みの香代。お笑い芸人になりたいと即興で思いついたにしては、どこか固い意志を感じる。  香代 「私の両親は随分昔に離婚してて……だから家族としての思い出があまりないんや。でも昔、お笑い番組を見ながら家族みんなで笑っていたことが唯一いい思い出で……たまにオカンとオトンが一緒になってご飯とか食べる機会があるんやけど、その時も2人はお笑い番組を見て楽しそうに笑うんや。  お笑いは人を笑わせる力がある。いつか、笑いが離婚した2人をまた仲良くさせてくれるような気がするんや。それが理由ってわけでもないけど、私も笑わせる力がある人間になりたい。どんな人たちにも笑って幸せでいてほしい。こういうの……変か……?」 雅司 「……」 驚いた。香代の両親が離婚していたのも驚いたけど、香代の志の高さ。やりたいことがないってさっきまで言ってたのに、そんなに立派な志があるじゃないか。 僕が小さな人間に見えてしまうくらい。  
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