43人が本棚に入れています
本棚に追加
熟女の味
『でも、よく我慢できましたね?』
『襖一枚隔てて、上品なお嬢様たちの恥態を聞かされ続けて、トラウマになっているのよ…』
『21年間、一度もしていないのですか?』
『セックスはしていないわよ。でも、婦人科の先生に性器は刺激しないと衰退するから、時々オナニーはしているのよ‼』
あまりに、あからさまな悦子の話しに、赤面してしまう。
大学時代一雄は女に積極的でもてたのに、周蔵は消極的でもてなかった。
周蔵には一雄が羨望の存在であった。
『一雄はいつも、女性にもてていた。僕は全然だめなんです』
『確かに、一雄がもてるわね。でも、あたしは地味な周蔵さんが大好きよ‼』
悦子の言葉は慰めになっていなかった。
周蔵の母親は東京の八王子に越した2年目。 男を作って京都に駆け落ちした。高校の修学旅行の時に一度京都駅前で、待ち合わせて会ったことは、あるけど、僅か6年で母は別人であった。だから、どうしても、女性に対する不信感が拭いきれないでいた。
まだ思春期にはいるまえに、母親を失った痛手は、周蔵が想像している以上に大きかった。
『周蔵さんのお母さん離婚したんですってね?』
きっと、一雄から聞いたのだと周蔵は直感した。無意識に悦子を母親の代償としていたとは、このときまだ自覚していなかった。
心に挫折を持った二人が、距離を縮め一つになるのは、最早時間の問題であった。
周蔵は母に捨てられた。と、思っていた。だから、京都駅前のミスタードーナツで、涙ながらに、周蔵に謝っても空々しい感情しか沸いてこなかった。
最初のコメントを投稿しよう!