序章

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静寂に身を置いていた影たちが、僅かに残された光をも呑み込もうと、とうとう重い腰を上げたのだ。 闇が近付くごとに、美しかった光が色を失っていく。 とうとう川は黒く染まり、遂には水面に浮かんでいたはずの春の月すら飲み下してしまった。 もはや先程までの水の輝きは見る影もない。 側に佇む桜の枝も枝垂れ柳の如く垂れ下がり、咲き誇る花弁はぼとりぼとりと音をたてて無惨に剥ぎ落とされてしまった。 そうして枯れ果てた花弁が砂のように消えるのを最後まで確認し終わると、影たちはようやく満足したようにその場から散り始めるのだった。 目には見えない存在――インビジブル。 常に暗所へ身を潜め、滅多に姿を現すことのない、常人には絶対不可視の朧気な存在。 彼らに脅かされた周囲のものすべてが、次々と否応無しに侵蝕され、やがて闇へと還っていく。 辺りに充満する異様な雰囲気を生み出している大元の原因は、彼らインビジブルだった。
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