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「――今宵も幾多の命を貪り食ったか……影よ」
静寂の中で、ふと低い声が呟く。
ぽつりと吐き出されたその声音はひどく平坦で、感情を含まない無機質なものだ。
どこか排他的な響きすら感じさせる声――その主は、闇夜にのさばる影たちを小高い丘の上から独り静観していた。
見るものに深い闇を彷彿とさせる黒い髪と衣服。
流れるような長いマントの奥からは、片刃の剣が二本覗く。
左腰に提げられたそれらの一方はすらりと長く、もう一方はその半分ほどの長さの護身用の短刀だ。
どちらも剣と呼ぶには若干細身で、研ぎ澄まされた美しい刀身は遥か東方の部族が扱う武器によく似ている。
愛用の刀が収まる年季の入った黒塗りの鞘には、戦の際に受けたのだろう刀痕が至るところに深く刻み込まれている。
それが、この男がかいくぐってきた道のりの険しさを何よりもはっきりと物語っていた。
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