序章

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不意に春風が周囲の淀みをさらう。 男の目が静かに死骸へ据えられる。 真っ二つに断ち切られた胴体が、蜃気楼のように虚ろに揺らめいている。 消えかけているのだ。 致命傷を負ったインビジブルは、その患部から徐々に揺らぎ、薄れ、やがて消え失せる。 全てが始めから無かったことになる。 それが彼らに与えられた定めだった。 だからといって彼らもそう簡単に消えはしない。 いくら儚いとはいえ、姿の見えぬものを捉えるのは至難のわざだ。
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