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思った通りだった。
真っ赤に熟れたプチトマトはプランターの裏に落ちていた。
しかし、そこは錆びた手摺りの下。
ちょっとの振動で外に転げ落ちてしまいそうだ。
「…このあたしから逃げようなんざ、10年早いですよ…っと。」
あたしはプランターをそっと持ち上げ静かに横へ置いた。
それから、プチトマトの前にしゃがみ直し、楽勝と言わんばかりの顔でそっと手を伸ばした。
と、その時―
「落ちろ!」
と遠くから聞き覚えのない声が聞こえてきた。
「…!?」
あたしは突然のできごとにビクッとして、思わず尻餅をついてしまった。
それと同時に、プチトマトは視界から姿を消した。
「ああ!!」
あたしは勢い良く立ち上がり錆びた手摺りに飛び付いた。
プチトマトは下の草むらの中に落ちたのだろうが、ここからじゃ隠れて見えない。
「あぁ…おっこったぁ。あとちょっとだったにぃ。…見つかればいいけど…」
そう言いながら、プランターをもとに戻し、プチトマト捜索に向かおうと部屋に一歩足を踏み入れた。
「ハハハッ。」
さっきの声の主だ。
思わず振り返り叫んだ。
「誰よぉ!どこのわらしだっけ!」
辺りを見回したが人影は見当たらない。
「逃げたな、くそガキがぁ!」
手摺りをガンッと叩くと錆の粉が舞った。
手摺りのきしむ音が反響して虚しく響いた。
しばらくすると、叩いた手がジーンと痛みだして、生温い風が頬を撫でた。
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