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・・・その部屋には、シャーペンと紙の擦れる音がストーブの音の指揮をしていた。
白く曇った窓の外では、この静かな音楽をまぎわらすかのように響く、サイレンの音。
溜め息と共に指揮者の動きが止まる。
そして、椅子が軋む音がした。
〈はぁ、もうこんな時間か……〉
その少年の耳に、新たに時計の秒針の音が聞こえてくる。
カーテンの音。
彼は、自らの目を優しく突き刺す橙色の光に反射的に手をかざした。
〈私は、一体なんの為に勉強しているのだろう。進路の為?職業の為?それとも、なんとなく?実際、それに自問してもわからないだろう。
つまり、理由もなくしているということか?
しかし、それは違う。
他人に流されている?
それも違う。
……いや、たとえどのような理由にしろ、『将来』はやってくるだろう。
そんなとき、私は更に考えてしまう。
私達の生きる意義は何かと。
金の為に、なんていうのは愚かだ。少なくとも、私はそう思う。
『諸行無常』という言葉があるように、金なども勿論、功績もいつかは必ず廃れる。
では、自らを生物として考える。我々生物は全て、繁殖をして、子孫を残す。だが、だからなんなのだ。そうする理由がない。生きている理由がないからだ。いや、理由ではなく意味と言った方がいいだろう。
そのような理由により、私達の存在理由は失せる。
まぁ、たとえ存在理由が消えたとしても、私たちは本能によって、つまり、無理矢理生きる、いや、本能という、己の中にこめられている種の欠片のようなモノに生かされていると言った方がいいかもしれない。
だけれども……〉
ほとんど裸の木から最後の、紅く変色した葉が落ちた。
……カーテンを閉める。
時計を見つめ、机へと向かった。
〈こんな風に、数学の証明問題等を解くとかえって頭がスッキリすることがよくある理由が今ならわかる。〉
そして、再び鳴り始める静かなる音楽。
結局のところ、彼は自身にこう言い訳をするしかないのだ。
『たとえ自らの存在意義がわかったとしても、それはただの自己満足にしかならず、意味を成すことはありえないのだ』と。
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