何もかも捨て

2/8
前へ
/56ページ
次へ
「若、雰囲気が変わりましたね」 「?そうか」 あの日以来、絢都は変わった。弱々しく消極的だった自分が嘘のように、前向きになる。 彼女は変わった。消極的さがさらに増したのか言葉数が少なくなったのだ。 「桜上水さんとはどうですか?」 「あ…うん」 途端絢都の表情が曇る。 「…何かあったのですか?」 「何も…、ただあの日以来あまり喋らなくなったなって」 「大丈夫ですよ」 キッパリと上条は言う。 「…んなさらりと」 「彼女は今自分と戦っているんです。あと少ししたらまた元の彼女に戻りますよ」 「……?自分の何と戦っているんだ」 何もかも知っている口振りに若干ムッとしながら絢都は問う。 「自分の気持ちと、です」 「???」 爽やかに穏やかに、上条は微笑んだ。 何年立っても上条という人物が読めない。 上条の読みは大抵が当たる。しかし今回はハズレかもしれない。やはり上条も所詮はただの人間だった。 桜上水はとうとう学校に来なくなった。担任はインフルエンザに掛かった、なんて言っていたがあんなのは嘘に決まっている。 で、問い詰めた所…… 「転校…」 「あぁ、なんでも突然海外の方へ行く事に決まったみたいでな」 「突然過ぎる…」 へなへなとその場にへたり込む。 「……いつ日本を離れるんだ?」 「今日だ」 「きょっ…」 「多分もう日本を出ているだろうな」 「……」 膝の上で拳をぐっと作る。 「だから…」 だからここ最近元気がなかったのか?
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

183人が本棚に入れています
本棚に追加