何もかも捨て

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「私、桐生君が好きです」 「なっ…」 思いもよらない発言に息を呑む。 「この数週間、一切顔を合わせず会話もしなかったのはとても辛かったです。だけどそうしないと自分の気持ちに気付けなかったんです」 「桜上水…」 「私、桐生君と一緒になれるなら何もかも捨てられます。桜上水の名も今の私にはただの飾りです」 「……」 「私はこの気持ちを恋だと信じています。まやかしじゃないと、信じてます」 桜上水の声が微かに震え、絢都は手を伸ばす。 「っ」 長い絹糸のような柔らかな髪が指先に触れ、やがて頬を撫でる。 確かに形があった。 目の前にいる桜上水は幻じゃない、夢ではない。 「さく………奏」 「っ…は、はい」 名前を呼ばれ緊張で体を縮こませる。 「俺は……極道、だ。奏が俺の彼女になったら“情婦”と呼ばれ、汚い目やイヤらしい目で見られるかもしれない。それに奏はお嬢様だったから並みの女より綺麗…なんだ。狙われる可能性もある。前より危険な目にあうかもしれない……それでも、こんな俺の側にいてくれるのか?何もかも捨てて」 今ならまだ間に合う。そう、言葉に出さず目で言ったが、彼女の気持ちは変わらなかった。
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