183人が本棚に入れています
本棚に追加
「私、桐生君が好きです」
「なっ…」
思いもよらない発言に息を呑む。
「この数週間、一切顔を合わせず会話もしなかったのはとても辛かったです。だけどそうしないと自分の気持ちに気付けなかったんです」
「桜上水…」
「私、桐生君と一緒になれるなら何もかも捨てられます。桜上水の名も今の私にはただの飾りです」
「……」
「私はこの気持ちを恋だと信じています。まやかしじゃないと、信じてます」
桜上水の声が微かに震え、絢都は手を伸ばす。
「っ」
長い絹糸のような柔らかな髪が指先に触れ、やがて頬を撫でる。
確かに形があった。
目の前にいる桜上水は幻じゃない、夢ではない。
「さく………奏」
「っ…は、はい」
名前を呼ばれ緊張で体を縮こませる。
「俺は……極道、だ。奏が俺の彼女になったら“情婦”と呼ばれ、汚い目やイヤらしい目で見られるかもしれない。それに奏はお嬢様だったから並みの女より綺麗…なんだ。狙われる可能性もある。前より危険な目にあうかもしれない……それでも、こんな俺の側にいてくれるのか?何もかも捨てて」
今ならまだ間に合う。そう、言葉に出さず目で言ったが、彼女の気持ちは変わらなかった。
最初のコメントを投稿しよう!