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「奇襲の割に油断されたな」
淡々と呟く遮那王は、天狗の足を固めたまま身体を浮き上がらせ、片手を解き喉笛を突く。
「ぐぅっ……」
「降参も言えますまい」
暫くそのままで時間が流れ、天狗の顔が青ざめて来た所で、漸く遮那王の手が離れた。
天狗は咳込みながら解放された身体を重々しく起き上がらせると、畏怖を湛えた瞳を真っ直ぐに遮那王へ向ける。
「強くなられたな、御曹子。最早この都に敵うものはおりますまい……人の中でも、神の眷属であったとしても……」
「そうであれば、全て貴方のお陰でしょう」
風鈴の様な涼やかな声と共に、遮那王が手を伸ばす。
天狗はそれを受けながら立ち上がると、脇に差していた黄金色の太刀を取り出し、遮那王の腰に差し込んだ。
「これは……」
「源氏の宝刀、『髭切』には劣るがな。しかし、これは平泉から流れた一流の太刀である」
厳かに告げる天狗を見詰め、遮那王は太刀を手にして引き抜いた。
白く輝く刃が、昇る朝日と呼び合い光を増す。
「それを手に、本願を遂げられよ。八幡太郎の血を引く源氏の嫡流、遮那王殿」
天狗は身を翻し、その雄々しい翼を打ち振るわせた。
「お待ち下さい! 私にはまだ……」
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