平泉へ

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それを見て、からかう様な笑みを浮かべる常陸坊に気付き、睨み付ける義経。 「何だ」 「いやいや、平家は手強いねー。でもな、独壇場ってぇのは長く続かんさ」 早口に言葉を投げ散らし、常陸坊はそそくさと後ろに下がる。 その後、無言の旅が暫く続いた。 「前回の戦で、生き延びた源氏もまだいます。伊豆と遠江には実の兄上、木曾にも従兄弟が」 沈黙を破ったのは、弥太郎だった。 神妙な面持ちでそう切り出すと、そのまま道を確かめながら独白の様に続ける。 「今の栄華も戦を重ねての事。戦をすれば人が死に、人が死ねば遺恨が残る。そうして繰り返す命のやり取りで、今の現世は繁栄しているのですから」 そこまで言うと、弥太郎は漸く義経に顔を向けた。 その瞳は力強く、凍える肌にさえも力が漲っている。 「御曹子が血を引く清和源氏も、強弓精兵の一族。必ず仇敵である平家を討つでしょう……だが、それで良しとなされるな……これは、秀衡様のお考えです。恐らくそこまではおっしゃらないでしょうが、お会いになればそれを感じられるでしょう」 「命は業と共に廻るという事か……」 義経はまだ見ぬ平泉の方角を見据え、呟いた。 都に次ぐと謳われる、黄金の都を統べる奥州藤原一族の三代目である秀衡という人物の一端に振れ、義経は逸る気持ちを抑えながら着実にその身を平泉に近付けて行った。
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