雌伏の時

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義経達の祖先に当たる陸奥守、八幡太郎義家の介入で、奥州藤原氏は北陸を征する礎を築いた。 その後も三代に渡り朝廷との関係を友好的に維持し、奥州は藤原一族の元、独立した勢力として安定を続けている。 源氏と平家が激しく権威を争った時でさえ、それに関与することも巻き込まれることも無く、泰然と構え続けていた。 それが可能な程に、強い力と朝廷への礼儀を維持し続けていたのである。 義経がその奥州藤原一族の都平泉に辿り着いたその日、秀衡は涙を落としまだ若い清和源氏の御曹子を迎えた。 「義経殿には何の咎ひとつ無い……それを、物の知らぬ内から……我等のもとでしばし気を休められよ」 人と人の本当の温かさというものを、義経はこの時に初めて触れたのかも知れない。 源氏の御曹子という事を知りながらも、それを隠し接した鞍馬の寺とは違い、『義経』という一人の孤独な少年として秀衡は接した。 それが義経には嬉しくも気恥ずかしくもあり、その日は特に話も弾まないまま早々に床へついた。 一日、二日と日が経ち、常陸坊は鞍馬の山へ戻り、弥太郎は義経を送り届けた事を主に告げる為都へ向かった。 そうして一人に戻った義経が、まだ慣れない馬を借り平泉の山を駆けていた時である。 ふと、とりわけ幹の太い大木に見事な馬をが二頭繋がれているのを目に留め、義経は馬を止めた。 「これも奥州の馬か。やはり見事だな」 思わず呟き、近付く義経。 そこへ、二人の若者が木立から姿を現した。
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