鞍馬の少年

3/16
1191人が本棚に入れています
本棚に追加
/555ページ
冬の都は酷く冷え込む。 風すらも凶器になり、幼児の柔らかい皮膚を痛々しい程に赤く染める。 そんな日は家の中で母に抱かれ、温かな肌に触れ眠るのが良い。 しかし、得てして元服前の少年というものは、大人から禁じられた作法や一挙手一投足を頑なにしたがるものだ。 この浮世離れした美しさを持つ、薄化粧を施した年頃の娘の様な作りの若者も、例に漏れず月影に身を晒す一人である。 「遮那王」 呼ぶ声は若い。少年と同じ位の歳だろうか。鼻につく嫌味な声色に、名を呼ばれた少年の黒髪が翻る。 「今日こそは、目に物見せてやる」 息を巻く声の主は、切り揃えたおかっぱの頭に赤い直垂を纏い、同じ姿の仲間を指で数え切れない程に従えていた。 この京の都を我が物顔で闊歩する、『カムロ』と呼ばれる集団である。 「毎日毎日好きにしやがって」 唾を吐き『カムロ』が手に掛けた刀は、勿論真剣だ。 それは力の象徴であると同時に、今の世を支配する『平家』の一族としての証でもある。 その様を見るだけで都の人々は怯んでしまうが、この美しい『遮那王』だけは嘲る様な笑みを浮かべる。 それが、『カムロ』達は気に食わなかった。
/555ページ

最初のコメントを投稿しよう!