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冬の都は酷く冷え込む。
風すらも凶器になり、幼児の柔らかい皮膚を痛々しい程に赤く染める。
そんな日は家の中で母に抱かれ、温かな肌に触れ眠るのが良い。
しかし、得てして元服前の少年というものは、大人から禁じられた作法や一挙手一投足を頑なにしたがるものだ。
この浮世離れした美しさを持つ、薄化粧を施した年頃の娘の様な作りの若者も、例に漏れず月影に身を晒す一人である。
「遮那王」
呼ぶ声は若い。少年と同じ位の歳だろうか。鼻につく嫌味な声色に、名を呼ばれた少年の黒髪が翻る。
「今日こそは、目に物見せてやる」
息を巻く声の主は、切り揃えたおかっぱの頭に赤い直垂を纏い、同じ姿の仲間を指で数え切れない程に従えていた。
この京の都を我が物顔で闊歩する、『カムロ』と呼ばれる集団である。
「毎日毎日好きにしやがって」
唾を吐き『カムロ』が手に掛けた刀は、勿論真剣だ。
それは力の象徴であると同時に、今の世を支配する『平家』の一族としての証でもある。
その様を見るだけで都の人々は怯んでしまうが、この美しい『遮那王』だけは嘲る様な笑みを浮かべる。
それが、『カムロ』達は気に食わなかった。
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