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「卑怯者!降りてこい!」
『カムロ』の一人がたまらず叫び声を上げる。
「怪我をしないだけ感謝しろ。……そんなことより、いいのか?」
涼しい顔をした少年が、顎で赤い直垂の群れる向こう側を示す。
刹那、漂ったのは殺気だった。
狂おしい程に燃え上がる、刃の煌めき。
地鳴りにも似た足音。
遠くの闇でもはっきりと見える程に巨大なその体躯。
頭まですっかりと覆った頭巾姿の山法師。
「刀の鬼がおでましだ」
遮那王は欄干に一本足の下駄で立ち上がると、軽やかに身を翻す。
「ま、ま、待て! 待ってくれ!」
迫る鬼、退く遮那王。動く事の出来ない『カムロ』達は、戦々恐々と叫びを上げて華麗な少年に縋り付く。
「忠告は……した」
手にした薄衣を被り、立ち去る遮那王の瞳。
その光の、なんと恐ろしい輝き。
黒よりも深く、赤よりも激しいその力を湛えた眼差しこそが鬼のそれだと、『カムロ』は心を凍らせた。
そして間もなく起こる断末魔の合奏は、立ち去った遮那王の耳へ届く筈も無かった。
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