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さて、夜が明けた。
遮那王は廊下を踏み鳴らす僧兵達の無遠慮な足音で目を醒まし、そっと狭い部屋の襖を開けて朝靄の掛かる庭を見詰める。
まだ日が昇ったばかりであることを確かめると、遮那王は再び寝床につこうとした。
「遮那王、目覚めたか。都が大事だ、お前も話を聞くか?」
屈強な坊主が布団に潜り込もうとする少年を呼び止める。
「何かありましたか」
面倒そうな吐息に混じり、か細い声が漏れた。
僧兵は息を荒くしながら、胸を張り娘の様な少年を見下ろす。
「『カムロ』が数十人、一晩で殺されたのだ。その骸からは残らず刀が奪われていた」
野太い声が震えているのは、恐怖か武者震いか。
少年が先の句を待つ間に、僅かだが僧兵の膝が笑う。
「刀鬼が出たのだ」
「それはそれは。『平家』はさぞお怒りでしょう」
冷ややかな声を返し、遮那王は布団を畳み始めた。
カムロという集団は平家子飼いの、少年諜報員といった役割だ。
しかし、権力をかさに着た少年達の素行は荒く、決して都の人々に良い印象を与えていない。
平家の陰口を叩く者を見つけては無下に刀を振るい、作物や反物を無法に徴収する。
遮那王に取っては平家というだけでも憎悪を抱く存在であることに加え、虎の威を借り好きに振る舞う様がなんとも許せない。
そういった訳で、彼は度々都に降りては人の目を盗み『カムロ』を痛め付けていたのであった。
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