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何度かその様なことを繰り返した揚句、『カムロ』達が群れを為して遮那王へ報復を企てたのが昨晩である。
「残らずやられたか」
様を見ろ、と遮那王は胸中で唾を吐く。
しかし、都の鬼もやり過ぎたか。
武士にも公家にも組さない僧兵が借り出されたということは、平家もいよいよ『刀鬼』の討伐に本腰を入れているという証明であった。
「あいつ、『強い』ですよ」
遮那王が零した鋭い一言に、僧兵は顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
「馬鹿者め! 我等鞍馬の僧を舐めるな! 本気を出せば叡山の奴等にも劣らぬわ!」
「では、得物はくれぐれも刀で無く長刀になされよ」
冷ややかに僧兵を一瞥し、遮那王は鍛え上げられた肉体の脇を摺り抜けて部屋を去った。
背中越しに血気盛んな喚き声が聞こえたが、少年は特に振り返りもせず長い廊下を渡る。
素足に凍てつく板張りの床も、この十数年ですっかり馴染んだ。
遮那王はそれから庭に飛び出し、『いつもの』山道へ繰り出す。
この鞍馬の山には、天狗が居る。
遮那王が身を置く鞍馬寺を越えて、遥かに深い木々の中を潜った山の奥に、『魔王尊』とも呼ばれる大天狗が住んでいるのだ。
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