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遮那王はその天狗の大権力者に見初められて以来、ひっそりと武芸の修業に明け暮れている。
「僧正坊っ!」
「来たか、御曹子」
若い呼び声に応えたのは、地響きの様に低く、臓腑を揺らす程に重い声だった。
鬱蒼とした自然に光を遮られた空間の中、何処からともなく鳥の翼を打つ音が響き、やがて一人の山伏が遮那王の前に姿を現した。
「お覚悟」
斜に立った山伏は一言漏らすなり、遮那王の懐に飛び込んだ。
いつの間に手にしたか、抜き身の刃が幼い心臓を貫こうと疾る。
「ちっ……」
遮那王は零からの一撃を間一髪で身を翻し、何とかかわした。
刃に触れた水干に、鮮やかな切り込みが生まれる。
そのまま身を沈ませ、振り返り様に足払いを掛ける遮那王。
天狗はその屈強な体躯からは想像もできない軽やかさで飛びかわすと、そのまま遮那王の細首を踏み付けようと足を伸ばす。
「動きが大きいわっ!」
山伏姿の天狗がそう叫んだ瞬間、遮那王の両手が彼の足首に絡み付き、大地に着いていた身体が膝を固めた。
天狗の巨体は体勢を崩し、頭から木葉屑の振り撒かれた大地にしたたか打ち付けられる。
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