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春。
吹く風が爽やかで、空には雲一つ無く、それは突き抜けるような青さで遙か彼方まで澄み渡っていて、淡い桃色の桜の花弁が宙を舞う幻想的な景色に、思わず胸が踊る。
何から何までが取り繕ったかのようなこの素晴らしい日に、俺はめでたく私立大丈夫学園の生徒になるんだ。
…などというワケでは全然なくて、去年入ったこの学校で高一から高二に進級するという、極自然で当たり前な行為をするだけだ。
夢も希望もあったもんじゃない。
一年も通って見飽きた通学路。そこで桜が散っていようが、何ら特別な感情を抱く筈もなく、
初々しい入学生達をスイスイ追い越しながら、学校への道のりをひた歩く俺。
少しズレたイヤフォンの位置を右手で直し、何気なく正面を向く。
そこで、はっと、息を呑んだ。
いつもは誰もいないような少し早めの時間帯に、緊張からか、何なのか、早めに登校し、路地に溢れ返っている新入生。
もって、後一週間だろうけど。
そのぐちゃぐちゃと気持ち悪い集団の中に、いた。
一人だけ、オーラが違う。
長い、腰まで届く上質の絹のような髪を桜の花びらと共に風に舞わせながら、その少女は優雅に歩いていた。
すらっと伸びる長い脚。肌が、雪のように白い。澄んだ白色。周りの風景が霞んで見えてしまう程に、彼女の歩みは美しくて、思わず見とれてしまっていた。
これが、多分俺と彼女の最初の出会い。
多分君は、覚えていないだろうけど。俺もつい最近まで忘れていたくらいだし。
ていうか、そもそも君は俺に気づいてないか。厳密に言えば出会ってもないし。
ただ、
桜舞う季節に、悠々と歩く君の姿は、とても魅力的で美しかったんだ。
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