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「…はいはい並びます」 「宜しい」 フンッと大げさにふんぞり返る恵梨に軽く笑いながらお腹をつつく。 すると、やめろよっと身を捩って由奈にデコピンを喰らわせる。 そうこう遊んでいるうちに、列は限りなく縮んで由奈の番になっていた。 受付のスタッフの方がにこやかに迎えてくれる。 「お名前は?」 「あ…浅井由奈です」 「アサイ…ユナさんですね、はい、ではこのバッジを目立つ所につけて下さい」 そういって渡されたバッジには大きな可愛い字で "368" と書かれていた。 「それはオーディション番号になります。バッジはなくさないで下さいね」 「はいっ」 後ろに付いてあるピンを外すと、左胸に取り付ける。 なんだか気持ちが切り替わるのを感じた。 恵梨に連れられて奥へと進むと、そこにはあの佐々木先生が立っていた。 「あ、佐々木先生…」 「こんにちは。良く来てくれたね…はい、これ休憩室で書いて」 柔らかい笑顔。 この笑顔につられてにこやかに笑うも、さっさと恵梨に手をひかれて更に奥の部屋へ連れていかれる。 良く見えなかったが、多分休憩室であろう。 由奈の苦手とするコーヒーの匂いが充満していた。 思わず顔をしかめる。 「そうそう、由奈、私の友達紹介するね」 はっとして意識を恵梨に戻す。 確かに、席にもう一人知らない人がいるのを見た。 綺麗な茶髪だった。 「赤阪、悠くん」 「あ…」 赤阪悠、と言うらしいその子は由奈の方を振り返った。 それは時間にして僅か1秒にもみたない僅かな時間である。 だがしかし、この時の由奈にとって彼の顔を見た瞬間、確かに時は止まった。
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