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『ど?電車に乗れたー?』
「お、おう…でも外回りと内回りって…」
『あ、山手線?由奈は新宿池袋方面に乗ればいーの』
「しんじゅく…いけぶくろ…」
コクコクと頭を上下にふり、言われた言葉を何度も繰り返す。
電話の向こうで笑う声が聞こえた。
『…頑張ろうね?今日が本番、オーディションなんだからさ』
その言葉にぐっと息がつまるも、そうだね、と呟いた。
「(オーディション、か…)」
そう、由奈がわざわざ電車に乗っているのは"オーディション"のためであった。
これを説明すると、時間は3週間も前にさかのぼる。
――東京都、代々木。
とある専門学校に由奈と友人の恵梨は居合わせていた。
その日は専門学校の体験入学であり、特別ゲストとして由奈の好きな声優が来ていたが為である。
「…どうしよ、ヤバい、緊張してきたっ!」
「はぁ?バカだなー」
「だって恵梨っ!あの、あの"庭球の王子様"に出てくるお菊役の高橋ヒロコがっ!!」
由奈と恵梨は早めに来たかいがあり、前列のセンターと言う最高の席をキープしていた。
しかしあまりの緊張からか由奈は声が大きくなり、恵梨の腕をバシバシと叩いて熱弁していた。
恵梨は流石に呆れたのか、はいはい、と流している。
「本当に由奈、庭球の王子様好きだねー」
「ったりまえよぅ!特に…」
またヒートアップしてきた由奈に恵梨はため息を吐くと、それを見計ったように司会進行役の女性が声を高らかに上げた。
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