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聖が目覚めるのと入れ違いに兄が出社して行った。
一人朝食を済ませると身仕度を整え昨日の病院へと向かった。
自動ドアをくぐり中に入ると病院特有の匂いが鼻につく。
受付で面会手続きを済ませると女性の病室へと向かう。
コンコンッ
軽くドアを叩くが中から返事は無い。
まだ目覚めていないのだろうと思いそのまま中へと入った。すると眠っていると思っていた女性が上半身をお越し窓の外を見つめていた。
自分が入って来た事にさえ気付いていない様子の女性に躊躇いながら声をかけた。
「…こんにちは」
「…」
聖の声に無言で振り返った女性にもう一度声をかける。
「こんにちは、もう起きても平気なんですか?」
「…あの、貴方は?」
不思議そうに首を傾げ尋ねられる。
「昨日助けていただいた者です。」
「……」
女性は口元に手をあて暫く記憶を辿ると「あぁ」と頷く。
「昨日は有り難うございました。でも酷い怪我を負わせてしまって何とお詫びすればいいのか。」
「別に構いませんよ。勝手に助けたのはこちらですし。」
「いえ、本当に有り難うございました。」
「気にしないで下さい。」
女性の静かでよく通る声、けれどどこか悲しそうな声。
事故の処理、病院の入院通院費は全て出すと言った聖に女性は困ったような表情を浮かべその必要は無いと断った。
断っているにもかかわらず出すと言い張る聖に女性の方が根負けをした。
「あっそうだ、肝心な事を聞き忘れてました。」
「…何でしょう?」
「貴女のお名前です。」
「名前?」
「はい、教えて頂けますか?」
「…空月(そらつき)と呼んで下さい。」
「空月さん、俺は櫻田聖です。あの下のお名前は?」
「……」
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