第一章

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 女性は姓だけ名乗ると目を閉じうつむき口を閉ざした。 聞かれたく無いのだと気付いた聖はそれ以上聞かず別の話に変えた。  夕暮れ―窓から夕日が射し込むと薄茶色で少しウェーブのかかったセミロングの髪と薄茶色の瞳が朱く染まったように見える。 空の色が茜色から紫紺へと移り変わり太陽の代わりに月が昇ると面会時間終了のアナウンスが流れた。 病室を後にし家へ帰る間も家に着いてからも空月の見せた悲しげな表情と声が離れなかった。 自室のベッドに寝転がり天井を見つめる。 「助かったのに、何であんなに悲しそうなんだろう…」  病室を訪ねた時に事故の説明をし助かって良かったと言った後、空月は笑っていた。 とても悲しそうに寂しそうに笑っていただけだった。 その笑顔の意味が知りたかった。いやその意味だけではなく彼女自身の事をもっと知りたいという気持ちが聖の中で大きくなっていった。
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