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「やめてください!やめて!!」
唯の悲鳴のような叫びに男は一瞬腕の動きを止め、顔色一つ変えない少女の表情に戦慄を覚えた。これだけいたぶられても微動だにせず、ただ静かに自分を見つめている。その漆黒の瞳の眼光は、もはや少女のそれではない。
男は華蓮から目をそらすと、ちっと舌打ちをし、苛いた表情を浮かべながら懐から白い包みのようなものを取り出した。それは男の手の上で開かれていく。
「・・・・・・・・・・・?」
華蓮は訝しげに眉を顰める。
そうして現れたのは、細かい粒を集めてできた、真っ白な粉。
男の顔は至極嬉しそうに笑みを形づくり、粉は口へと移される。白粉の匂いが風に運ばれ、華蓮の鼻に届いた。
瞬間、華蓮の体はひどく強張る。大きな双眸がさらに大きく見開かれた。
その粉の香り。
覚えのある、匂い。
人を狂わせるほどの毒気を混じえて、けれどどこか甘美なまでの甘さを持つ。
体の奥で鮮明に記憶している感覚だ。確かに自分は、これを知っている。
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