第一章

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この香りは、まさか。 「阿片・・・・・・か?」 わずかに声が震えた。しかし男はそれに気づかない。華蓮の態度を興味ととったらしく、口元を歪めてカラになった包みを華蓮の前に突きつけた。 阿片とは赤い芥子の花から取れる一種の麻薬だ。 「へえ。よくわかったなあ知ってんのか?こいつはいいぜぇ一回で天国に行ったみてえな気分になる」 包みから漂う残り香がひどく鼻につく。男の笑い声が耳に残って不快だ。 無意識に両手で耳を覆う。切れるほど強く唇を噛み、目をきつく閉じた華蓮の脳裏に、閃光がよぎる。 ―――――闇に染まった雲間から、おぼろげに輝く月の色。 肌を射るように冷たい、冬の夜の風。 裸足で走った冷たい土の感触。 白い頬を濡らした雫の温度。 心臓が早鳴る。体が冷たくなるのを感じる。何も言えなくなる。 記憶の底から蘇る、畏怖と憎悪。 「―――――――――!?」 男の甲高い悲鳴が、耳の奥で聞こえた気がした。
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