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この香りは、まさか。
「阿片・・・・・・か?」
わずかに声が震えた。しかし男はそれに気づかない。華蓮の態度を興味ととったらしく、口元を歪めてカラになった包みを華蓮の前に突きつけた。
阿片とは赤い芥子の花から取れる一種の麻薬だ。
「へえ。よくわかったなあ知ってんのか?こいつはいいぜぇ一回で天国に行ったみてえな気分になる」
包みから漂う残り香がひどく鼻につく。男の笑い声が耳に残って不快だ。
無意識に両手で耳を覆う。切れるほど強く唇を噛み、目をきつく閉じた華蓮の脳裏に、閃光がよぎる。
―――――闇に染まった雲間から、おぼろげに輝く月の色。
肌を射るように冷たい、冬の夜の風。
裸足で走った冷たい土の感触。
白い頬を濡らした雫の温度。
心臓が早鳴る。体が冷たくなるのを感じる。何も言えなくなる。
記憶の底から蘇る、畏怖と憎悪。
「―――――――――!?」
男の甲高い悲鳴が、耳の奥で聞こえた気がした。
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