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凛とした黒い瞳。肩に届く長さの真直な黒い髪。どこか怜悧さが漂う立ち振舞い。
歳は十五歳くらいだろう。まだ幼さの残る顔立ちとは裏腹に、長い睫に縁取られた瞳には鮮烈な輝きが宿っている。
少女の視線に内心鼻白みながら、それでも男は負けじと言い返す。
「ちょっとその娘に酌を頼んだだけじゃねえか!」
「酌を頼んだだけでどうして路地に連れ込もうとするんだ」
「か、華蓮、もういいよ、私気にしてないから」
おずおずと黒髪の少女の後ろから顔を出したのは、腰まである長い髪をひとつにまとめて、頭に麻布を巻いた市場の娘だ。
その声を耳にして、華蓮と呼ばれた少女はなおも男を見据える。
「お前恥ずかしくないのか?大の大人がガキに殴られてすっ転んで揚句にいい年して手を出した子どもに同情されて。この中年スケベ男が」
周りでかすかな笑いが洩れる。中年男は怒りで顔を真っ赤にし、嘲笑を浮かべる少女に拳を振り上げた。
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