第一章

5/13
前へ
/15ページ
次へ
「唯、いつも言ってるだろう。ああいう馬鹿にはできるだけ近寄るな」 広州の港は市場から少し離れたところにあった。この港に着くのは主に貿易船だ。船の荷を積み降ろしする人々がまばらに行き交っている。時折吹く風に濃い潮の香りが混ざり、鼻先をかすめていく。少し西に傾いた太陽は、それでも眩しく輝き、上へ上へと枝を伸ばす木々を明るく照らしていた。華蓮は海を背にした石段に腰をおろし、目の前に立っている少女を軽くにらむ。 「うん。ごめんね華蓮。ありがとう」 「話しかけられても適当にかわして逃げるんだぞ。のこのこついて行くな」 「うん。わかった。だいじょうぶだよ」 その間の抜けた返事にほんとにわかってんのかなとか思いつつ、華蓮は海の方へ目を向けた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加