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波のない、閑かな青灰色の水の向こうに、何船もの豪華な船を見る。その帆船に掲げる旗は明らかに外国のものだ。
「英国人の出入りが、激しくなってきたな」
静かに呟く。海から運ばれてきた潮風が、その艶やかな黒髪を優しく撫ぜた。
「あの戦争に負けてから、民の暮らしは悪くなる一方だ。ここも見た目は良さそうだけど、職につけなくて路頭に迷う人であふれてる。でも政府はそいつらに何の助けも出さずに英国にヘこへこ従うだけだ。腐りきってる」
澄んだ声音に怒りが混ざる。華蓮は風で乱れた髪をいらただしげに掻きあげた。
そんな華蓮の表情を、唯は静かに見つめていた。彼女は知っている。なぜ華蓮がそんなに政府を嫌うのか。否、憎むのかを。
「華蓮」
その名を呼ぶ。潮風に真直な髪をさらした少女が振り返る。
「あのときのこと、まだ・・・・・ひきずってるの?」
どこかの船が出航したのだろう、遠くで汽笛の音が響いた。その音は空の色を映す海面を滑り、地平線に消える。
華蓮は薄く笑って答える。どこか苦しそうな、悲しそうな瞳で。
「関係ないよ。・・・・・・・・・もう」
その瞳の鮮烈な輝きが、かすかに揺らいだ。
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