第二章

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「ぶっっ」 突然顔面に、クリスの手がぶつかってきた。というか、これは、抑えられたのだ。 苦しくて、一夜はクリスの手を掴んではがそうとした。 しかしその力がすごくて、びくともしない。この手のひらの向こう側で、彼はどんな表情をしているのだろう・・。 「聞け」 低い声が、制するように室内に響いた。 遠くで鳴く鳥のさえずりしか聞こえない、沈黙が下りた。 「満月の夜は、私たちの魔力を上げ、それとともに、いろいろなことが制御できなくなる」 一夜はもがくのを止めて、クリスの声に聞き入る。 「だから、あれは、そういうことだ・・・」 珍しく歯切れが悪い。 満月の所為? 全部? 「・・でも」 口はふさがれてない。 「月が欲望を増徴させるなら、そこに少しでも気持があるんじゃないの?」 「それは・・・」 力が緩んだ隙を突いて、自分の顔に居座っていた腕を剥がした。 「ない」 きっぱりとした声が聞こえる。目の前の端正な顔から発されたようだ。 一夜は呆然とその顔を見つめた。 「君への気持はない」
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