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「ぶっっ」
突然顔面に、クリスの手がぶつかってきた。というか、これは、抑えられたのだ。
苦しくて、一夜はクリスの手を掴んではがそうとした。
しかしその力がすごくて、びくともしない。この手のひらの向こう側で、彼はどんな表情をしているのだろう・・。
「聞け」
低い声が、制するように室内に響いた。
遠くで鳴く鳥のさえずりしか聞こえない、沈黙が下りた。
「満月の夜は、私たちの魔力を上げ、それとともに、いろいろなことが制御できなくなる」
一夜はもがくのを止めて、クリスの声に聞き入る。
「だから、あれは、そういうことだ・・・」
珍しく歯切れが悪い。
満月の所為?
全部?
「・・でも」
口はふさがれてない。
「月が欲望を増徴させるなら、そこに少しでも気持があるんじゃないの?」
「それは・・・」
力が緩んだ隙を突いて、自分の顔に居座っていた腕を剥がした。
「ない」
きっぱりとした声が聞こえる。目の前の端正な顔から発されたようだ。
一夜は呆然とその顔を見つめた。
「君への気持はない」
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