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「一夜、お茶」
クリスは読んでいる本から目を離さず、側に居る一夜に話しかけた。
しかし、返事がこない。
怪訝に思い、顔を上げ辺りを見回すと、すぐ近くでこちらを憮然と見つめる一夜が居た。
「なんだ、いるじゃないか。おち…」
「聞こえてるよ」
目が合うとすぐに、ふいっと視線をそらし、立ち上がってキッチンへ行く。
それをクリスは苦笑しながら見送った。
あのクリスの告白から数日。
結局日々を変わらず過ごしていた。少し変わったことは、クリスが優しく一夜を名前で呼ぶようになったこと。そして、ふとした甘い空気の流れ。その瞬間はぎこちなく気恥ずかしいが、すぐに大気に溶けてしまう。
「根性なし…」
「ん?なんか言ったか?」
クリスの声が聞こえないかのように、ガチャンと大きな音を立てて、ヤカンを火にかける。
あの話をしてくれたのは、すごく嬉しかった。クリスの心の中を垣間見れたような気がして。
でも結局、最後に通告を受けた。
まるで近づいたかと思ったら、突然突き飛ばされた様な心地だった。
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