ザッキルテへの告白

12/35
前へ
/35ページ
次へ
生徒のみならず、教職員すべてが校内で生活することがメリキドル女子校の規則だった。教職員宿舎の自分の部屋でその日の診察の報告書を書き終えたアノーマは、読みかけの小説の続きを読もうと本を探して、それを保健室に忘れてきたことに気づいた。 校長にばれたら叱られていただろうが、あまりに話が面白いので保健室で暇を盗んで読み進めていた本だった。突然生徒が来たので慌てて書類に突っ込んでそのまま忘れたようだ。物語はいよいよ佳境に入るところだった。読めないとなると一層読みたくなった。とうとうアノーマは意を決して宿舎を出て教室棟にある保健室へ向かった。 鍵を開けて保健室に入る。月の明るい夜なので明かりはつけなかった。巡回しているはずの守衛に明かりを見咎められ、こんな時間にここにいることの説明をする羽目になりたくない。幸い本はすぐに見つかった。顔を上げて窓の方を見たその時だった。 月の光に青白く浮かび上がった横顔が窓を横切っていった。あの長い髪があの微笑みが、闇を透かして漂うかのようだった。 ザッキルテ!
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

144人が本棚に入れています
本棚に追加