フューチャー・リカバリー

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 彼はとても幼かった。  時空を移動する私にとって、人間の年齢は大して意味を為さない。その気になれば対象者のあらゆる年代を垣間見ることが出来るのだから。  だが、それでも彼の幼さは意識にノイズをもたらした。  小さな身体。稚拙な思考。しかし、彼は私を求めていた。私が感じる思考のなかで大切なものは『タイムマシンを欲する気持ち』だ。かといって別に明確な言葉で、タイムマシンを願う必要はない。  あの時に戻れたら。もっと先を見れるなら。そんなあやふやなものでいい。私は精神エネルギーを傍受し、対象者の思考へと潜り込む。  そうしてしばらくじっとしていると、私は対象者――この場合、幼き彼の脳の働きをリアルに聞くようになる。お腹が空いたとか遊びたいだとかの、タイムマシン……つまり私に関係ない思考は取り外して聞く。  彼の願いは明確だった。自分の将来を知りたいのだと言う。子供の願いは大概未来に向けられているのが常だったので、私は『やはりか』と思った。  当たり前だが子供の想像する未来像はいつであれ希望に満ちている。絵本や漫画に出てくる絵そのままの場合も多い。たまに地球に宇宙人が来訪していたりもする。まさにSFだ。  タイムマシンである私は勿論未来がどのようなものになっているか知っているのだが、子供の想像は見ていて楽しくなるような未来絵図ばかりだった。  しかし、彼の場合は少し違った。  彼の考える未来像を捕まえた時、私は違和感を覚えたのだ。何がおかしいのか、初めは気付かなかったのだが、じいっと見つめる内にやっとわかった。  彼の未来には彼自身が存在しない。影すらも見えない。彼の家族が暮らしているにもかかわらず、少年の姿は何処にもない。  それは何故か?  私は、今まで取り除いていた思考の全てを改めて吟味する作業に取り掛かる。手がかりはすぐに見つかった。  彼はおびえていた。  彼は諦めていた。  彼は恐れていた。  彼はとても苦しんでいた。  彼の目に映るのは青い空ではなく、毎日毎日変わらない白い天井だった。  彼を見つめる両親の眼差しにはいつも悲しみに暮れていた。  彼を診察する医者の口振りからは隠せぬ嘘がこぼれていた。  彼は物心ついた頃から病に冒されている。彼自身は病気の種類を知らない。ゆえに私が知ることも出来ないが、重い病気であろうとは理解している。
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