フューチャー・リカバリー

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 私ではなく、彼が、だ。  そして彼は自分の死を身近に感じている。近く自分はいなくなるのだろうと予感し、だから想像上の未来にも自分の姿は浮かべない。  しかし、その諦めと同時に、将来を知りたいとも思っている。  矛盾が彼の中では無理なく介在しているのがありありと感じられた。幼いからこそ柔軟に折り合いを付けられるのだろう。  私は考える。  彼を未来に連れて行くかどうか。  不思議なことに、私はタイムマシンという機械でありながら人間と差異のない自律思考を持っていた。理由は私にもわからないが、私は世界中の『私』を求める人間を自分の意思で選んでその人物を時間移動させることが出来る。  選ぶ条件は『タイムマシンを信じる人間』であること。それのみである。  条件については、私が精神エネルギーを傍受したという事実で既にクリアとなっている。少しでも疑いを捨てきれない人間に対しては反応しない。解析には今のところ間違いは起こっていなかった。  そんなわけで条件はクリアしているのだが、私にも好みがあるのだ。  まず、あくどい企み――例えば過去の要人を殺して世界を征服してやろう、とか――を持った人間を連れていきたくはない。単純に気分が悪いからしたくないのだが、もしかしたらロボット三原則のような規律が私にもあるのかもしれない。  更に、歴史を大きく変える行動もなるべくならさせたくない。人間の祖先である哺乳類を抹殺して人類史そのものを根本から消す、なんて行為はもろにアウトである。 後々に及ぼす影響が甚大になればなるほど私の知っている時の流れとは違ってしまうし、そうなると先々の時間移動に支障が起こる。平たく言えば面倒くさい。  今、病室のベッドで眠っている彼は無論悪人ではない。純粋に自分の将来を知りたいだけだ。この点はオーケー、問題なし。彼を未来に連れて行っても歴史が変わる恐れは無いだろう。  そもそも大多数の人間は歴史に影響を与える力を持っていない。仮に、死ぬべき予定であった一般庶民の人生を少しずらしたとしても、広い視野で見れば世界は何にも変わらない。ましてや彼はただ未来を見たいだけなのだ、ゆえに問題なし。
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