フューチャー・リカバリー

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 では何故私は迷っているのか?  答えは簡単だ。彼は間もなく死ぬ。つまり将来など存在しない。となると私は彼の望みを叶えられない。  心停止した姿を見せて『あれが君の将来だ』なんて言う神経は生憎と私は持ち合わせておらず、仮にそうしたら彼は心から絶望してしまうだろう。僅かな希望も、病と戦う気力すらも潰えるのは予想に難くない。  私は機械らしからぬ情緒をも搭載していた。人間が自分のせいで悲しめば申し訳なく思うし、それが幼い子供だったら我が身を裂かれんばかりに苦しくなる。だから今こうして悩んでいた。  彼を主にするのは止めておくべきか否か……。という風に考えてはみるものの、私のCPUは五分以上悩むように出来ていない。迷ったらとにかくゴーサイン、を信条としている。何しろ時間は飛ぶように過ぎていく。当たって砕けろの精神だ。とりあえず今まで砕けた経験は無いので今回も大丈夫だろう。  彼の夢を叶えてみせよう。何故なら私はタイムマシン、そのぐらい簡単なことだ。  一時の主を決めてからの私のやることはパターン化されている。  まずは傀儡を探す。私の存在は人間の目には見えない。異次元もしくは視界の盲点に据わっているのか……あくまでも推測で私にもその辺りの詳細はわからない。とにかく人間には知覚不可能なようだ。  というわけで、私の思考を人間に伝える必要がある場合には適当な無機物に入る。人形がベストだが動かせる手足があればぬいぐるみでもロボットでも何でもいい。わかりやすいアクションは人間に安心感を与える。枕やハンガーが喋るよりもずっとマシだ。  喋ると言っても、当然のごとく無機物に声帯は無い。なので私の思考を数値化したのちCPUに載せて電波に変換し、主の脳へ直接情報を伝達する。  他人には私の声は聞こえない上に、主は勝手に『無機物が喋った』と思ってくれる。脳に変な声が聞こえるとなると自分の頭がおかしくなったのかと不安感を抱く人間も少なくないので、これは我ながら良い方法だと自負している。  彼の病室には男の子が好みそうなロボットの玩具があった。少し古びてはいるが腕も脚も動作するようだ。  ロボットの持ち主である少年は眠っている。病院の消灯時間にはきちんと従う、きちんとした性格だというあらわれか。それとも体力が落ち始めているのかもしれない。
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