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「……無理しなくていいぞ蝶野」
女性の手が小刻みに震えていることに気づいて恭也は言う。
決してこの蝶野桜という女性が恭也のことが嫌いで手が震えているのではない。
桜は幼少の頃、何らかの理由で男性恐怖症になってしまった。
だから、男に触れることが出来ないのはもちろん自分から話しかけることも恐くてあまり出来ない。
と言っても、仕方ないときは自分から話しかけることもある。
そのことを恭也は知っているので優しく桜にいう。
(本当はチャンスだろうな)
心の中で密かにそう思った。
実は、恭也は桜に中学校の時から想いを寄せている。
恭也はこう見えても面倒見がよく、まるで小動物みたいな桜が放っておけなくて実の兄のように接して男性恐怖症を解いてやろうとしていた。
それが月日が経つことに恭也の中で淡い恋へと変わっていったのである。
「蝶野、消しゴムを自分の机の上に置いてくれ。俺が取りに行くから」
「……ごめん」
「謝る理由はないだろ?」
出来るだけ桜を怯えさせないように微笑んでいい、桜が机の上に置いている消しゴムを取る。
そして離れ際に「ありがとう」と呟く。
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