紅の季節

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「――はぁ、遅くなっちゃった……」 結局最後まで残って練習していたのは、楓と美樹の二人だけだった。 美樹に至っては『楓に負けちゃいられないもんね』と、意気込んでいたが途中から楓のペースについて行けず、これから毎日練習するとの宣言は無駄に終わった。 一人で以前より少しだけ暗くなった道を歩きながら、自然と目線はグラウンドの方へと向く。 今日は夏休みと違ってたくさんの人がグラウンドで何かしらの練習をしている。 それは恐らく彼の部活であろうバスケを始め、サッカーやらハンドボールやら。どの部活も窮屈そうにグラウンドを駆け回っていた。 まずこの中から探しだすのは無理だろう、そんな事を思っていた矢先、リングが激しく揺れる音が耳を突いた。 「お、決まった決まったー!」 「当たり前だろー、毎日練習してたんだから」 本当はダンクが出来るようになりたいんだけどね、と奏優祐が友達と笑い合う姿が見えた。 夏休みの時とは違って、部活のユニフォームらしき物を来ている。 まさか見つけられるとは思ってもみなかった楓は、驚きのあまり慌てて駆け出した。 「な、なんで居るのよ……!!!!」 切々に息をつきながら、よく意味のわからない台詞を吐き出す。 それは奴がバスケ部員だからだよ、と冷静に突っ込んでくれる人は今ここには居ない。 かなり動揺している事に気づきもしないで、しばらく走り続けるとようやく頭が冷えてきたようだ。 歩調はだんだんと緩くなり、まるで自分自身を落ち着かせるかの様に大きく深呼吸をする。 「……、居て当たり前じゃない。何言ってんだろ、私……」 何を考えいるんだ、何を考えているんだと頭の中で反復しながら気を取り直したかのように顔をあげた。
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