紅の季節

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新学期も2日3日経てば皆、いつものペースを取り戻す。 1日何時間かある授業を終え、それぞれ部活に勤しむかそそくさと帰宅するかのどっちかだ。 しかし、今学期だけは例外となる。 珍しく皆が黙り込み、緊張した空気が流れる。 そんな中、誰よりも緊張している者が一人いた―― 『文化祭?』 『……やっぱり忘れてたよこの子』 つい先程の昼休み。 皆で丸くなって弁当をつつきながら、朋子の疑問に疑問で返した楓の口元では、箸がガリッと悲鳴をあげた。 突然、ではないが、そろそろ文化祭も近いという事もあり朋子はこの話題を切り出した。 だがそれ以前に、夏休み前には既にクラスの出し物は決定していて、これから色々細かい事を決めていこう、という所だった。 『パスタ、か……なんかよくわかんないよねー』 『もう全品ミートソーススパゲティでよくない?』 『よくない』 『だってメニュー増えると大変じゃーん……』 なんとも冴えない表情で友人の会話を見守る楓は、まるで自分は無関係だと言わんばかりの顔をしている。 箸で弁当の中身をつつきながら何やら考え事をしているようだ。 その姿を見た朋子達は呆れたように彼女を小突いた。 『……っいた』 『痛いじゃない! 人事じゃないんだからね?』 今日の放課後に責任者と会計決めるって言ってたじゃん、と朋子は自分の弁当に向かって喋り続ける。 持っていた箸を弁当の中のウインナーにブスリと突き刺すと、それを持ち上げながら『少しは関心持ちなさいよ、この弓道バカ!』と勢いよく言いきった。 『――あ、じゃあさ』 何か思いついたように、丸く輪になっていた内の一人、三浦 遥が楽しそうに提案してみせた。 『楓が責任者やるってのはどう?』
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