紅の季節

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『む、無理!』 『即答かよ……』 今までの行動からは想像もつかないくらいの早い返事に、そこにいたほぼ全員が顔をひきつらせるか、苦笑いを漏らした。 楓はというと、何故だか焦ったようにご飯を口に運ぶ。 『全く、じゃあ会計は?』 『……む『よし決定!』 遥は何を言わせるまでもなく、反論しようとした彼女の言葉を遮るかのように大声を張り上げる。 それ以前に、楓の口内にはまだご飯が詰まっていて、ただモゴモゴと何やらうめくのが聞こえた。 しばらくして、ようやく口の中の物を飲み下した楓は遥に向かって拒否の意見を述べる。 『私だって大会近いんだからね!?』 『この弓道バカー』 『弓道バカで結構! 文化祭より弓道の方が優先!』 鼻息荒く異論を述べても、結局相手にされる事はなかった。 ――――そして、現在に至る。 「ねぇ朋子、やっぱり私じゃなくて「何言ってんの? 部長も蹴ったくせに少しは責任ある役割しなさいよ」 そう早口で言いくるめられるとさっきまでの威勢をなくし、ガクッと項垂れる。 それでもまだ全体の責任者よりましか、と思えばなんとかやっていけそうな気がした。 「今回だけだからね?」 「さっすが楓! って事で女子の会計は楓がやるそうでーす!」 「ち、ちょっと待ってよ朋子! まだ他に立候補とかいたら――」 「じゃあ女子の会計は咲坂さんで」 「え、即決!!?」 一人でオロオロしながら楓は顔を朋子に向けたり前に向けたり、忙しそうに翻弄されていた。 有無を言わせず実行委員が黒板の会計の欄に"咲坂 楓"と書けば、よくやく諦めたのか大袈裟にため息をつく。 そして“納得いかない”と言いたげな表情で机に突っ伏した。
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