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――パンッ
30mほど遠くにある的に真っ直ぐに矢が刺さった。ビィィンと、強すぎる衝撃に耐えられず細い矢は数秒間その場で振動し続ける。
それを真剣な眼差しでジッと見つめ、矢を放った人物は満足そうにギュッと結んでいた口をほどいた。
ふう……と、息を一つ吐くと彼女は満足そうに手の甲で額に浮かんだ汗を拭った。
この弓道場には、蝉のうるさく鳴く声と、風に揺れて葉がカサカサと鳴る音。
それと、彼女の作り出す衣擦れの小さな音しか聞こえない。
夏休みという事もあるだろうが、容赦なく照りつける日差しはジリジリと痛いほど身体を焼いていく。
「あっつー…………」
彼女はじれったそうに弓懸を外しながら、少し高めに結いあげられた髪を揺らす。そしてクルリと遠方にある的に背を向けると、ようやく夏のキツイ陽射しが当たらない所まで引っ込む。
一人きりの道場。
彼女――咲坂楓は、こうして夏休み中一人で熱心に練習を積みかさねている。
朝は学校が開いてからすぐに、練習を終えるのは夕日が半分沈みかけてくる頃まで、ただひたすらに弓を放っていた。
それもその筈、夏休み明けには部活の大きな試合が控えており、この弓道部も力を入れて練習をしている。
ただそれも週に僅かの練習であって、決して楓の満足いくような練習量ではなかった。だからこそ、こうして一人で毎日学校に通って練習をしていた。
練習はもう十分済んだのか、それとも日が沈みかけているからなのか、楓は踵を返すと弓道場を後にする。
つい先程放った矢は、見事に真ん中を射抜いていた。
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