紅の季節

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「――はぁ、はぁッ」 バタンと無意識で勢いよく、後ろ手で自室のドアを閉めた。 鞄を持つ腕に力がこもる。楓はそれを抱きかかえるようにして立ち尽くしていた。 息が調うのを待ってから、ようやく彼女は伏せていた顔をあげ制服のままベッドに身を投げる。 布団にぐっと顔を押しつけると、天日干しをしたのか太陽の独特の匂いが鼻をくすぐった。 「んー、あったかーい……」 満足げに目を瞑り、そのまま布団の柔らかさを堪能する。 何度も母親からは『制服のままベッドには入らないように』と言われている事を思い出したが、この言い様のない幸福感はいつまで経ってもやめられない。 枕を引き寄せ眠りの体制に入ろうとするが、その前にやらなければならない事をいくつか思い出しうんうんと唸りだした。 「……シャワー、浴びなきゃ。あと、お腹空いたしなぁ……」 睡魔か空腹か、どちらが勝つかといえば楓にとってそれは勿論空腹で。さすがに制服のまま寝るのも躊躇われたし、とりあえず起きてみるのを試みる。 しかし一日中練習をしていたおかげか、なかなか身体は言うことを聞かない。 いつもならすんなりと動く筈なのに、今日に限って―――― 「う、あ……」 そうだ、と。 頭に浮かんだのは帰り道に起きた事だった。 しかしそれを思い出してしまうと、どこかで見たあの顔がまた気になってしまう。 誰だ誰だ、と考え込んでいると、ふと机の引き出しに目が止まった。 「もしかして……」 今までの悶着が嘘だったかのように、楓はガバッと身を起き上がらせた。 そして引き出しから一枚の写真を取り出し―――― 「……いた」
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