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「えっ!!? あ、いや、なんでもないよ」
どうやら人の出入りが激しいドア付近を、無意識のうちにずっと見ていたらしい。
朋子が楓の目を覗き込み話しかけられるまで、自分のした行動に気づきもしなかったようだ。
「楓ー、大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ! 当たり前じゃん!」
「……恋の悩みならおねーちゃん聞いてあげ「だから大丈夫だって!」
――やってしまった。
そう思った時はもう遅かった。
椅子から立ち上がって机に両手をつき、朋子に向かって滅多に出さない大声をあげた楓は、クラス中の視線を集めていた。
気まずい空気が教室に流れる。
自然と顔に熱が集まるのを感じた。
誰も口を開こうとはせずに、ただ何があったのか疑問に思っている様子で。
だが、それも数秒経てば何事もなかったかのように元通りになった。
視線が自分から反れた事を確認すると、盛大なため息をつきつつ椅子を引きながら目の前の朋子にブツブツ文句を述べた。
「もう……朋子がいきなりあんな事言うから……」
「だって楓がおかしいからつい、ね? からかいたくなっちゃうじゃない」
「じゃないって……あ――――」
朋子に反論しようと、手で頭を抱えて埋めていた顔をバッと上げた、その時。
視界の隅に写った、一人の男子生徒。
――――彼が、居た。
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