紅の季節

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ちょうど朋子が額に手をついた時、今までずっと聞き役に徹していた楓が口を開いた。 「ねぇ、あの人……なんていうの?」 「んん?」 グッと身を朋子の方に乗り出し、周りには気付かれないよう細心の注意を払いながら彼の居る方を指差した。 他の誰かが自分の事を見てやしないか、とキョロキョロ視線を動かし、やがて指を差している方向に戻る。 もちろんそこには未だに友達とボールの投げ合いをしている例の彼がいて。 夏休みに見かけた時と、なんら変わりはない。 「どっち?」 と朋子が間抜けた声を出したので楓はガクッと項垂れた。 あの人といったら彼しか居ないのに、と思ってはいても声には出さない。 むしろそんな事は意識の範疇にないだろう、要は無自覚なのだ。 半ばじれったさを感じていた朋子は口をへの字に曲げ、頭をかきながら楓を見据えた。 「ああもうめんどくさいから両方ね、あっちで立ってんのが嶋田 和憲、バスケ部部長。それで今ボール受け取ったのが奏 優祐……あ、ボール落とした」 今しがた目にした光景にニヤリと笑った朋子だが、それに反して楓はぼーっとした眼差しをしている。 そうこうしている内に、担任の教師が騒がしい教室に入ってきた。 「奏君……か」 朋子にも気付かれないような小ささで、ポツリと呟いた。
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