58人が本棚に入れています
本棚に追加
いくら凄んでも殺気を放っても、動じない無感情で虚ろな瞳は色を持たないまま、ただただ俺を見つめていた。
死を恐れず強気でいて殺気を含んだ態度で言葉を口にする、そんな瞳をした女の様子を見て俺の中で、いつかの母親との会話が脳裏を過ぎった。
◇◆◇◆◇◆◇
それは約二年前、某都内の私有地にて起きた出来事。
「姐さん!恭さん止めて下さい!組潰れますって!!」
「暴れすぎると、また近所に通報されて事情聴取とられまっせ!」
「じゃかぁしい!!警察怖くて、ヤクザやっとれるか!!今日こそ、こんクソ息子の根性叩き直したるんや護もアンタらも止めんとき!!」
アワアワとしながらも制止の言葉をかける恭の世話役である護や、その他の若い衆に追い掛けながらもバタバタと走り叫ぶは恭の母親である妃咲(ヒサキ)。
「こンの馬鹿息子!!今日という今日は叩っ斬ったるぁ!!覚悟しぃ!!」
「ハッ、んな刃とってつけたよーな棒で何が出来んだよ!」
「アホか、こんボケナスがっ!!馬鹿にするんも大概にしぃや!」
攻撃をヒョイヒョイと避けるか、愛用のナイフで弾くかしながら、言葉で挑発する恭に対し正に鬼の形相でブンブンと手慣れた様子で薙刀を振るい扱う妃咲。
「うっわ、ゴリラみてー」
「なんやと!!」
「わ、若っ!姐さんを挑発するような事言わんで下せぇっ!」
「ああっ、姐さんそっちは、あきまへんって!!」
「待て、ゴルァ!!」
「ぎゃあぁっ!!襖がぁー!!」
長い漆黒のの艶やかな髪と着崩れた着物を振り乱しドカバキと薙刀で周囲を破壊していく妃咲の動きを必死で食いつき止めようとする組の若い衆達であったが女だてらに羽倉組の姐をしているだけあって彼女は半端なく強く跳ね飛ばされたり蹴り飛ばされたりとした揚句、薙刀で負傷するものや人間が続出。
その他の組の人間はと言えば。
「あんな華奢な身体の何処に、そんな力があるんですかねー」
「ま、護っ!!お前も止めぇや!このままやったら組、姐さん一人に崩壊させられるで!!」
「姐さん……アレがなかったら、美人な、お嬢さんで通りはるのにのう……」
妃咲の暴れっぷりに最早、呆れ半分に感心させられる護と他の組の連中。
彼等は妃咲を止める人間達から僅かに離れ寧ろ遠巻き気味に事態を、見守り始めていた。
.
最初のコメントを投稿しよう!