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「あっ、待ちィや……恭!」
「ハッ、待てと言われて待つ馬鹿なんかいねーから」
「こンの……コレでも喰らいや!」
――ヒュッ!
「――っ、と」
腐っても極道の妻、と言うよりも恭の母親と言うべきか。
昔とったなんとやら。
「……へぇ?意外にやるじゃん。ババア」
「フン……これでも昔はアンタと同じ刃物(ドウグ)操る事に長けてたんや……あんまり嘗めてもらっちゃ困るわ」
恭の足元の床には、その歩みを止めるように数本の短刀が突き刺さっていた。
「アンタを仕留められへんでも、足止めくらいは朝飯前や」
「ふーん……で続きすんの?」
クスリと高圧的に、そして妖艶に微笑む妃咲を瞳に映しながら面白い玩具を見つけたとでもいうように笑う恭。
そんな恭に苦笑気味に妃咲は口を開く。
「アホ、もう怒る気も失せたわ。ただ……」
「ただ……?」
「……アンタ、最近調子こいてるみたいやから忠告を、な」
「……ふーん忠告、ね。いいぜ、聞いてやるよ」
「……はぁ、物聞く態度やないな」
「嫌だったら俺、部屋帰るし」
せっかく聞いてやろーと思ったのにと言えば妃咲は「この、クソガキが」と言い溜息を吐く。
「ククッ、そんなクソガキ産んで育てたの誰だし」
「……ウチやな」
もう何を言っても無駄だと悟ったのだろう手にし構えていた薙刀を降ろし瞳を閉じ。
「せやから言うんや」
そう真っすぐな瞳で恭を見据えた。
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