始まり

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羽蔵組の後継ぎの俺には誰もが、言いなり。 実際、実力も他の必要な要素も兼ね備えてんだから当たり前っちゃ当たり前だけど。 跪ずけ、この愚民共よろしく一部の羨望の眼差しを向ける変人共以外、誰もが畏怖や恐怖を抱く俺にとって『ソレ』は最早、絶対的なものになっていた。 でもって、そんな当たり前の日常は今も、これからも変わらない。 ――そう、 思っていたのに。 「は?」 なんだよ、コレ。 周囲には口元を切り床に座り込んでいる家の組の下っ端に位置する数人の男ども。 目の前にはカタギにしては十分過ぎる程の殺気を含んだ気の強そうな女が一人。 全く……あまりに馬鹿らしくて笑いたくても笑えねー。 「お前さー、俺の組の下っ端連中に何してくれちゃってんのー……殺されてーのかよ?」 「……そっちが悪いんでしょう?絡んできたのはソイツらからよ。殺すなら殺せばいいじゃん」 「うわ、ムカつくー。殺していい?」 「だから殺すなら殺せばいいって言ったばっか何だけど……アンタ馬鹿?」 「はぁ?俺相手に馬鹿とかありえねー、美人だから相手してやろうかと思ったけど、やーめた」 いくら凄んで殺気を放っても、動じない女に苛立ち半分呆れ半分。 相手すんの面倒くなってきたし。 てな訳で。 「死ねよ」 バイバーイ。 片手を振りながら地面を蹴り出して女を切り付けようとナイフを振りかざし笑う俺。 ククッ、久々に女殺すかもー。 そんな、くだらない事を考える俺だったけど次の瞬間、俺の身体はピタリと制止せざるおえなくなった。 なんで、って。 んなの俺の所為じゃねーし。 この女の所為だっつーの。 あー……もう。 マジ、うぜぇー。 「調子、狂うような事すんなよ」 「…………」 俺の声に黙り込む女。 「なんで」 どうして、お前は今にも殺されようとしていた間際の刹那に。 「微笑ってたんだよ?」 そう、コイツは。 目の前の女は。 殺されようとしている間際、確かに微笑んで言ったんだ。 「ありがとう」と。 あの時の俺は、どうしてコイツが微笑み礼を告げたのか、それが、どういった意味を持つかなんて。 気づいてもいなかったんだ。 .
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