612人が本棚に入れています
本棚に追加
カチカチカチカチ………
目覚まし時計の秒針の音。
静かな静かな夏の夜。
その他に聞こえるのはエアコンの微かな音……そして……
ハァ―――……
溜め息。
「どした?」
落ち着いた優しい声はいつもと同じ。
問われて、冬菜は情けない顔をする。
いつもの有仁の部屋。
宿題を見てもらうのを理由にして、冬菜はほぼ毎晩のように、こうして有仁の部屋に来るのが日課になっていた。
有仁の部屋にはテーブルがない。
ゆえに、冬菜は勉強道具と自分の部屋にある小さなテーブルを持ってくることにしている。
その小さなテーブルで、冬菜は今、宿題を広げて溜め息をついていた。
原因は……
宿題ではない。
有仁と冬菜は高校2年生。
名門私立吉崎陽和学園高等部に在籍中。
で、しっかりと恋人同士。
二人がこうして付き合うまでには、いろんなことがあったのだが、今は何も問題なく付き合っている。
付き合っているといっても、冬菜は有仁の家が経営している下宿屋の下宿生で、一つ屋根の下で一緒に暮らしているのだが………
最初のコメントを投稿しよう!