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全体的に深く、しかし透明感のあるコバルトブルーは、白い壁に限りなく映えた。
「これは誰の絵です?」
「……昔ここで働いていた、従業員でございます」
彼はおそらく、ここの支配人なのだろう。穏やかな笑顔を崩さず、彼は続けた。
「このホテルのイメージで描いたのだそうです。身内のことで恐縮ですが、私はなかなか気に入っておりましてね。彼が去った今も、こちらに飾らせてもらっているのですよ」
彼は青の絵を見上げ、そして言った。
「随分と長い月日が経ちました。今はもう従業員以外は私だけ、家族ももうおりませんから、一人でこの絵を堪能できます。……寂しくは、ありますがね」
絵の隅には、今から二十年以上前の西暦が書かれている。
「……この絵は、男女の出会いで生まれたのですよ」
不意に、男性はそんなことを言った。その言葉に、僕はまた視線を彼に戻す。
「ミルクティをご用意いたしましょう。もしよろしければ、私の思い出話しに付き合っていただけませんか?」
白髪混じりの頭。伸びた背筋。
僕はもう一度彼を見て、頷いた。
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