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新月に近い細い月に人は同じように目を細めたし、満月に近付いてゆく月を心を込めて見守った。満月に溜め息をつき、また欠けゆく月を寂しく見つめた。
この町の人間にとって、月はいつも傍にある、慈しむべき大切なものであった。そしてそれは、ここに住む者も、目的あって訪れた者も、ただの通りすがりもみんな同じであった。
もちろん、彼も。
民宿から海へ行く道の途中、決して大きな道路ではないが町で一番月の光が当たる場所がある。どれだけ時間が経ち、月が空を歩いても、その場所は常に月の光が降り注いだ。
そしてそれは、ちょうどホテルの前の道であったのだ。
ホテルの前のその通りでは、満月やそれに近い、月が人間を見下ろす日、この町は街灯を点けない。月光が人々の足元を、行く先を示す灯りとなるからだ。
もちろん、優しい光であるからすれ違う人の顔なんて見えない。近付かないと、誰なのかわからない。だから、ここでよく男女が逢った。認められている者たちも、知られてはならない者たちも、月の光の下では同じだったのだ。
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